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『ステレオ!これがロック漫筆VOL.1 ロックンロールストーブリーグ』

「すばらしい」「すばらしすぎる」という言葉をTwitterで連発するライターさんがいて、まあTwitterだから許されるのかなーと思いつつ、書き手としてのサービス精神を疑ってしまう。ぼくは「『すばらしい』以外の言葉で『素晴らしさ』を表現するのがライターの仕事だ」と考える。

安田謙一さんの久しぶりの単行本が出版された。『CDジャーナル』での連載をまとめた『ステレオ!これがロック漫筆VOL.1 ロックンロールストーブリーグ』。安田さんの専売特許たる「ロック漫筆」の神髄が、辻井タカヒロさんの絶妙なタイトル・イラスト、四コマ漫画とのセットで2ページ見開き。96編収録という怒涛の内容。すばらしい。すばらしすぎる。いや、この素晴らしさを「すばらしい」以外の言葉で仔細に伝えたい。

こないだMarkこと加藤麻季さんのブログのコメント欄で少し議論めいたやりとりがあったのだが、ぼくはそこで偉そうに「自分は単純に"人々に音楽の良さを伝えるライター"などではありたくない」と書いたのですね。加藤さんは聡明なので、ぼくのコメントの真意を察して「松本さんはいろいろやりたいことがあるのでしょうね。今度お会いしたときにたっぷり話しましょう☆彡」と優しいレスをくれた。

ぼくは自ら「音楽ライター」と名乗ったことはない。「ライターをやっています」と言ったことはあるかも知れないが、それはきっとバーとかキャバクラとか(ほとんど行ったことありませんが)で、偶然隣に座った行きずりの他人に対して、説明するのが面倒臭くて適当に「副業でライターやってます」と言う程度なのだ。

安田さんは肩書をロック漫筆あるいはロック漫筆家で統一されているが、正しい意味で「音楽ライター」と呼ばれるべき数少ない存在だと思う。

一般に音楽ライターと呼ばれる人たちには「レビュー」と称した商業音楽についての適当な補足説明の為に新しい専門用語のストックを増やして使い回してるだけの薄っぺらな書き手が多く、それは本質的な意味では「音楽ライター」ではなく「広告ライター」に近い。

安田さんが「ロック漫筆」と呼ぶ自らのエンターテイメント。それは彼の圧倒的なロックへの愛情と積年の博識を柱にしたディスク・ガイドであり(さっきからぼくの指と目は、この本とYouTubeを行ったり来たりしている)、また安田謙一という神戸のおっちゃんの人柄に触れる温かいエッセーでもあり、漫談のテキストとしても秀逸だ。目次だけでも吹き出して笑ってしまった。

安田さんには「アホなことを」と言われるだろうが、これはアートなのだ。ぼくもそうありたい、と思って文章を書いてきたのだった。忘れてた。そうそう、これこれ、この感じ。忘れてた。Mark加藤さんが看破している「松本さんのやりたいこと」って、この感じなんですよ。つまり、音楽を媒介にして、音楽と等価の、あるいはそれ以上のエンターテイメントを作りだす人だけが初めて「音楽ライター」と呼ばれるべきなのだ。違うかい。違わない。おれ、それ目指してる。

ぼくの自慢は2003年の安田さんの単著『ピントがボケる音』に2ヶ所も登場させてもらっていることなのですが、今回の『ロックンロールストーブリーグ』にも登場しているのを発見。しかも、ちょっとかっこいい登場で松本人志と並び賞される光栄っぷりです。ご一緒した宴席やライブの出来事についての記述も多くて(連載が始まった2002年は逆瀬川ポセイドンズ結成年でもあり、よくお会いしていた時期でありました)、とても懐かしく、個人的にも嬉しい本となりました。

安田さん、辻井さん、『CDジャーナル』の皆さん、ありがとうございます。
ぼくにも何か書かせて下さい。
by kamekitix | 2010-04-24 20:04