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大森靖子『PINK』

平賀さち枝『23歳』とは対照的に、ヴィジュアルが楽曲の魅力を嫌というほどサポートしているのが、大森靖子の初CD『PINK』だ。胸の谷間が気になるジャケット写真だけではなくインナーに大きく起用された70年代プログレのジャケットみたいな猛烈にサイケデリックな絵画は彼女自身の筆による。そうだ、大森さんは美大で絵画を学んでいたのだった。

大森靖子の作風は豊田道倫に似ている。具体的なエピソードを想起させる歌詞は極私的で、時に聴く者を突き放す。強いアタックでギターを掻き鳴らし、怒鳴るように大声で歌い、時に聴く者を威嚇する。最後の曲「PINK」の終盤で畳み掛ける激情の独白はあまりに衝撃的で、そのテンションだけを切り取られるとハチ公前のインディーズ政治団体のきちがいアジテーションと同種だと思われてしまうだろう。

きっと好き/嫌いはハッキリ分かれる。アクが強いので誤解も多いはずだ。彼女自身、敬遠されてしまって、居場所がないように思うこともあるに違いない。しかし「コーヒータイム」のようなキャッチーな構成のポップソングも作れる懐の深さを感じさせるところも、豊田に似ている。ロックを追求する彼とはアプローチが違うかも知れないが『PINK』を聴いて豊田道倫の新作を待ち遠しく感じたのは事実だ。

デート中のカップルが乗ってる車のカーステで、FMから「パーティードレス」が流れて、男の子が「なんだこれ。怖い歌だなぁ」と笑って、助手席の女の子が調子を合わせて「そうね」と言いつつ、彼氏にバレないようにこっそり心を震わせるような、そんなことが日本中で起こるといいな。
大森靖子『PINK』_c0086766_1223587.jpg

2012/4/7発売
PINK-001
by kamekitix | 2012-04-29 01:22