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「アイドルとは何か」と考える時、Tomato n' Pineのプロデューサー=Jane Suさんの言葉を思い出す。

Janeさんは自らトマパイのことをアイドルと呼んだことはなく「アイドルって人に元気を与えたり、"もっと頑張ろう"と思うパフォーマンスをしたり、そういう存在だと思うんですね」と言われた。アイドルとは自称するものではなく、享受する側が決める概念であって、つまり「私はアイドルです」と言うことは実は不遜で尊大な態度なのではないかと思う。

「今会えるアイドル」を標榜したアルファベット3数字2が爆発的に流通したせいで、無自覚で不遜なアイドルが増えた。女の子が何人かいて適当な衣装を揃えてそれっぽい楽曲に乗せて振付を決めて定期的に握手会だかチェキ会だかなんとか会をやれば「アイドル」ということになっている。どんなに「私はアイドルをやっています」と言われても、それを見た自分が元気にならなければ認めてはいけない。「ぼくにとって、あなたはアイドルじゃない」と言ってやりたい自称アイドルが多い。

私にとってNegiccoは間違いなく「アイドル」だ。connieによる楽曲の凝りに凝った展開、ポジティヴな世界観、伸びやかでキュートなボーカルとコーラス・ワーク。そして、人懐っこい笑顔と百戦錬磨の天然MCと美しい脚線のラインダンスで魅了するライブの高揚感を体験すれば、誰もが確実に元気になる。

AKBの功罪が氾濫する現在の状況は、おニャン子クラブが市場を荒らしてペンペン草も生えなかった冬の時代のアイドルを思い出させる。88年から91年頃に良質なポップスを演じた素晴らしいアイドルたち。Lip's、河田純子、中野理絵、田山真美子……。あまり陽の当たらなかった彼女たちを思い出してしまう。それも、私がNegiccoに心酔する一因だ。Negiccoのブレイクは、すべての不遇だったアイドルの存在をクリアにするだろう。

「日本一のローカル・アイドル」という矛盾した冠を外すときが来た。真の「日本一のアイドル」を目指し、八年間の助走をつけて、Negiccoが今、高く跳ぶ。

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Negicco『Negicco 2003~2012 -BEST-』
2012/2/22発売
T-Palette Records
TPRC-0009
2,800円
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by kamekitix | 2012-02-24 00:38 | Review
1.Surround Island
「バイノーラル・レコーディング」とか「ホロフォニック」という言葉が80年代に流行した。サイキックTVのアルバムはホロフォニック録音で「ヘッドホンで聴くと背後から銃声が聴こえる」という触れ込みだった。アフター・ディナーのアルバムには「ヘッドホンをしてクリックに合わせて左右に頭を振りながら聴いて下さい」という面倒な注釈があった。「サラウンド」もその頃に一般化した用語だと思う。要するに2チャンネル・ステレオの次のオーディオ・システムのスタンダードと目されていたのだ。しかし、30年近く経過した今日でさえ、おれのパソコンに繋がっているスピーカーは二個だけだし、決して音像は立体化しない。「さらうんど」という言葉には「魅力的だけど過剰なイメージ」「愛すべきトゥーマッチ感」があり、この曲のシンセのキラキラした音質と左右にパンして浮遊するボーカルには「実現しなかった近未来」へのノスタルジーが含有されている。

2.夜のライン
最初の30秒。このアルバムの方向性が鮮明に映し出される。キュートなシンコペーション。チープな打ち込みのスネア。細かいカッティングのギター。どこか幾何学的でアーバンな風景描写と、鴨田潤の粘っこいボーカル。『(((さらうんど)))』は2012年の『天然の美』なのではないか。

3.ジュジュ
などと79年発売の近田春夫のアルバムに思いを馳せていると、続く三曲目は佐野元春のカバー。『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』(89年)より「ジュジュ」。最小限にチョイスされた平易な言葉で最大のイマジネーションを誘発する至芸。名曲だ。神田生まれニューヨーク帰りの佐野元春と、高槻生まれ経堂帰りの鴨田潤のボーカルは異質だが、意外とハマっている。とりあえずおれはこの曲を聴いて『NO DAMAGE』『NO DAMEGE Ⅱ』を改めてiTunesに入れた。

4.サマータイマー
一昨年にダウンロード配信で公開された先行シングルと呼ぶべきナンバー。サビメロの最後の一節の切れ上がる転調が気持ち良い。可愛い恋の情景と心地好いアレンジ。この曲がアルバム全体の爽快感を高めている。まるでYMO『浮気なぼくら』(83年)に収録されていそうな曲だ。ダウンロードして聴いたときにはあまりピンと来なくて、アルバムとしてキッティングされたものをプレイヤーで聴くと「何と良い曲なんだ」と思うことが最近多くて、この曲も正しくそう。データ配信以外の、パッケージされたレコードやCDやテープを「フィジカル・リリース」と総称するのがトレンドのようだが、そのネーミング気持ち悪い。フィジカル・リリースして良いのはオリビア・ニュートン・ジョンだけだ。

5.陽炎リディム
二曲続けて夏の歌。デペッシュ・モードのファースト・アルバムみたいなチープなベース・トラックにスチールパンやカズー、ブルージーなギターの間奏が賑やか。ボーカルのアチコの声質はカラフルな琉球っぽい音階によく合う。でも、どうしようもなくテクノポップで、小川美潮とMENU(ちわきまゆみ)とウリチパン郡を繋ぐ名曲とでも呼ぶべきか。

6.Gauge Song
一転して持続音の多い、凍てつくようなバラード。まるで大沢誉志幸。確かに、このアルバムは80年代だったらエピックかファンハウスから出そうな作品だ。

7.タイムリープでつかまえて
サウンドストリートのデモテープ特集で坂本龍一が絶賛しそうな曲。すなわち槇原敬之っぽいということだ。饒舌に詰め込まれた煌めく詩情がドラマチックに展開する。そういえば、一月の弾き語りライブで鴨田は阿久悠へのオマージュを語り、唄っていた。それは感動的な内容だった。ウィキペディアによると阿久悠は歌謡曲とJ-POPの違いをこう述べている。
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ブログと映画の違いぐらい違うと思いますね、今のJ-POPの詞と歌謡曲の詞とはね。「誰かが喜んでくれるといいな」「誰かが興奮してくれるといいな」「誰かが美しくなってくれるといいな」というような願いを込めながら、一つの世界を作り上げていくっていうのが歌謡曲であって、そうじゃなくて、「俺はこんな気持ちで悩んでるから俺の気持ちを分かれよ」っていうのがブログですから、ええ、これの違いだろうと多分思います。
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(((さらうんど)))は最新型のアレンジ能力とエッジの立ちまくった音色セレクトと歌謡曲の香りを持つ歌詞を武器にJ-POPフィールドで戦うべきユニットだ。DJ仲間の余興として内輪受けで終わってしまっては勿体ない。槇原敬之は鴨田と同じ高槻市出身だ。打倒マッキー、(((さらうんど))))。

8.冬の刹那
いやぁこのアルバムで個人的にいちばん驚いた曲。2000年にリリースされたAhh! Folly JetのEP『Abandoned Songs From The Limbo』収録「ハッピーバースデー」のカラオケ・トラックにまったく別のメロディと歌詞を乗せた新手のカバー。Ahh! Folly Jetは和製カフェ・ジャックスと形容したい素晴らしいバンドで、当時、確か恵比寿のクラブでライブを観て猛烈に気に入ってしまい、このCDも発売日を待ちわびて買った記憶がある。スリーヴのグラフィック・デザインも最高で、ジャパニーズ・シティ・ポップス界というものがあれば殿堂入りすべき不朽の名盤なのである。この曲をチョイスした着想の勝利。オリジナルの歌詞は「乳首にサルトルのポートレート貼られちゃって/体中にバースデー・ケーキを塗りたくられたヌードが/しばられてひとり泣いてるなんて/これがキミの恋なの?」みたいな感じで、その濃厚な世界観とは比較できないなぁ。90年代の菊地成孔、最強。

9.Skyper
ヤズーのセカンド・アルバムに入ってそうなイントロ。と思ったらギターが聴こえてきて、やっぱりファンキー。この曲を聴きながら思い浮かぶアーティスト名を羅列していこう。ア・フロック・オブ・シーガルズ、ビル・ネルソン、YMO、チャイナ・クライシス、OMD。

10.R.E.C.O.R.D.
極めて少ないルールで殆ど即興、一発録りしたと思われる小品。テクノポップの人工感に満ちたアルバムの最後にフィジカルな要素をひとつ置いて、全体の肌触りを少しアーシーに、温かいものにしている。その姿勢の優しさを想像する。ほとんど全裸の(((さらうんど)))のコアが丸見えになってしまったトラックに、改めてこのユニットの背骨は鴨田潤というボーカリストの魅力なのだと確認。

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『(((さらうんど)))』
2012/3/7発売
KAKUBARHYTHM
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by kamekitix | 2012-02-12 19:16 | Review
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