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平賀さち枝『23歳』とは対照的に、ヴィジュアルが楽曲の魅力を嫌というほどサポートしているのが、大森靖子の初CD『PINK』だ。胸の谷間が気になるジャケット写真だけではなくインナーに大きく起用された70年代プログレのジャケットみたいな猛烈にサイケデリックな絵画は彼女自身の筆による。そうだ、大森さんは美大で絵画を学んでいたのだった。

大森靖子の作風は豊田道倫に似ている。具体的なエピソードを想起させる歌詞は極私的で、時に聴く者を突き放す。強いアタックでギターを掻き鳴らし、怒鳴るように大声で歌い、時に聴く者を威嚇する。最後の曲「PINK」の終盤で畳み掛ける激情の独白はあまりに衝撃的で、そのテンションだけを切り取られるとハチ公前のインディーズ政治団体のきちがいアジテーションと同種だと思われてしまうだろう。

きっと好き/嫌いはハッキリ分かれる。アクが強いので誤解も多いはずだ。彼女自身、敬遠されてしまって、居場所がないように思うこともあるに違いない。しかし「コーヒータイム」のようなキャッチーな構成のポップソングも作れる懐の深さを感じさせるところも、豊田に似ている。ロックを追求する彼とはアプローチが違うかも知れないが『PINK』を聴いて豊田道倫の新作を待ち遠しく感じたのは事実だ。

デート中のカップルが乗ってる車のカーステで、FMから「パーティードレス」が流れて、男の子が「なんだこれ。怖い歌だなぁ」と笑って、助手席の女の子が調子を合わせて「そうね」と言いつつ、彼氏にバレないようにこっそり心を震わせるような、そんなことが日本中で起こるといいな。
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2012/4/7発売
PINK-001
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by kamekitix | 2012-04-29 01:22 | Review
平賀さち枝の二作目は6曲入りのミニアルバム。昨年『さっちゃん』に夢中になったファンにとっては待望のリリース。白眉は最後の曲「パレード」だ。眩しい風景の描写で紡ぎだすポジティヴな世界観には、少しだけ儚さが滲んでいて、その発声の圧倒的な可愛さと混ざり合って、愛しい。バンド編成の録音でアレンジの幅が広がったが、その中心にある歌声の魅力は安定していて、デビュー作に劣らない名盤だ。

夢は落っこちた だけど素晴らしい
花が咲いている 悲しくはない
(「No Music, No Life」)

恋人に語りかける詩であっても、どこか刹那的で「いつかは忘れてしまう」とか「いずれいつかは消える」とかネガティヴな思いが入ってくるのが、平賀さち枝の特長だ。平易な言葉で、正直な気持ちを綴る。その実直な姿勢が共感を生む。昨年『さっちゃん』を繰り返し聴いて抱いた「普通であることがいちばん強い」「平凡な毎日が最も愛しい」という感慨が再び強くなる。

そう考えると「平賀さち枝」とは実に良く出来た名前だ。平賀さんの本名は「幸枝」と書くらしい。「幸」を敢えて伏せてひらがなにしてしまうのは、彼女のスタンスを象徴しているかのようだ。実際は「ゆきえ」と誤読されるのを懸念して「さち枝」にしただけらしいが。

このアルバムの難点を挙げるとすれば、ジャケットやスリーブの写真に平賀さんのキュートさが写し出されていないことだ。いいなと思うカットが一葉もない。面白い顔の子供を撮ることで有名な川島小鳥くんのカメラだが、小柄で童顔というだけで「23歳の平賀さち枝」の撮影に彼を起用したのであれば、それはミスキャスト。ヴィジュアル面で平賀さんの良いところが全然伝わっていないのがすごく残念。
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2012/4/4発売
KITI-009
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by kamekitix | 2012-04-29 01:21 | Review
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