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昆虫キッズ『My Final Fantasy』

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12月、最初の日曜日。
ネイキッドロフトで昆虫キッズ高橋翔のソロ・ステージを見て、おれはようやく昆虫キッズの魅力に気づいた。
40才を超えると嗅覚が鈍るようで、昆虫キッズの魅力を理解するのに半年ぐらいかかってしまったのである。

開演直前に近くの韓国料理屋でごはんを食べた。ビールを飲み、会場に戻る短い道中で、高橋くんと少しだけ音楽の話をした。

「松本さん、こないだYo La Tengo好きって言ってましたけど、Atlas Sound好きですか」と訊かれて「なにそれ知らない」と答えると、高橋くんは熱心に教えてくれた。
「Deerhunterというアメリカのバンドのメンバーがやってるバンドで。DeerhunterはギターがLotus Plazaというのをやっていて」
「ああ。Lotus Plazaは知ってる。めちゃ好き。毎日聴いてる」
「マジっすか! そのへん出してるレーベル=Krankyはハズレないっすよ!」

おそらくおれが『クッキーシーン』を毎号読んでいたら話は早かったのだろうけれども、生憎おれの洋楽に対する知識はSTEREOLABのメアリーが死んだあたりで止まっている。Prefab Sproutの新譜が出ているのも知らなかったぐらいだ。

この夜のイベント『豊田道倫presents勉強会VOL.7』は凄まじい内容だった。

ホスト役である豊田道倫と3人のゲスト(三輪二郎、MARK、高橋翔)の演奏が交互に。曲によっては豊田とゲストが共演。先鋭的なシンガー/ソングライターたちの濃密な公開ミーティング。豊田がつけたサブタイトルは正しく「今年出会った凄い人達」だった。

三輪二郎、MARKという激烈に個性的かつ圧倒的に実力派の二人が会場の空気をみるみる変えていく。高橋くんの出演は最後だった。

客席の後ろに立っていた高橋くんに、おれは失礼にも「ヤバイね」と言った。
彼も「ヤバイっすねー」と笑ってステージに向かったが、彼の演奏は前者たちと何ら遜色のない、自信に満ちたものだった。

彼のギターワークには定評があり、これまで豊田が何度も「高橋くんがきちんとした『ロックなギター』を弾けるから『ABCD』は成立した」と言ってるのを聞いていた。今夜のエフェクターの使い方、その音色の響かせ方には90年代USインディーのサイケデリックなバックボーンが明確に見えた。おれはJesus & Mary Chainのシングル「Just Like Honey」をリアルタイムで買っている世代なのだよ。まあジザメリは90年代でもUSでもないが。

これまで何度も聴いた昆虫キッズの代表曲「まちのひかり」。ソロで歌われているのを見て、それが初めて美しく聴こえて、感動した。おれは彼に「絶対音感ならぬ絶対音痴だね」とまで言い切っていたのだ。これまで大変酷いことを言っていたものだ。

長いイントロになってしまったが、この原稿はこれまでの非礼を詫びるべく、年末ギリギリでようやく見つけたおれの2009年ベスト・アルバム=昆虫キッズ『My Final Fantasy』を全曲レビューするものである。

01.きらいだよ

昆虫キッズの大きな魅力のひとつにベーシスト=のもとなつよの存在が挙げられる。これはもう絶対に挙げられる。挙げざるをえないことを誰もが知っている。誰もが知っていることをみなさんご存じか。周知の事実/必須事項/絶対条件/大前提というやつだ。つまり、のもとさんが昆虫キッズを脱退したりするようなことが万一あれば、おれは生涯二度と「昆虫」とも「キッズ」とも口にしないだろう。彼女の声の儚さ、可愛さがハンドメイドかつエレクトリックなミックスで、ドリーミーな定位で、マジカルな美しさで紡ぎだされる、この「森ガールのテーマ・ソング」とでも言うべき麗しいナンバーが一曲目に配されているという事実が、昆虫キッズの優秀なところだ。優秀とは「優しくて秀でている」という意味だ。まあ歌詞の風景は海ですが「森ガール」と言うとけば売れるらしいですし。そこだけが少し大人びた声で歌われる「またどこかで」という最後の一節に涙。

02.ブルーブルー

メロディーメーカーとしての実力、アレンジの瞬発力。昆虫キッズのフレッシュすぎる自己紹介。歌詞はキャッチーな押韻をコードに嵌め込んでいく仕様で、シュールかつ原初的。おそらくコードから決めていくのであろう作曲手法はきわめて洋楽的な成り立ちで、往年のカーネーションに近いのかも。そして、この圧倒的な疾走感をグリップしているのは高橋くんのボーカルの破壊力なのだ。これに気づくのに半年かかった。

03.まちのひかり

昆虫キッズ、現時点での最大のヒット・チューン。一度聴いたら一日半ぐらいは「むしり取ってカチューシャ」「恋の予感/薄目で見るゾンビの」「ブレイクブレイクマイハー小龍包食べようぜ」というフレーズが耳に残るコードワークの妙。のもとさんがベースを弾くタッチの音がベリベリと聞こえるグランジっぽさ。そして、これらの爽快感をドライブしているのは高橋くんのボーカルの破壊力なのだ。これに気づくのに半年かかった。

04.わいわいワールド

高橋くんは25才だと言っていたかな。アルバムタイトルもそうだけどテレビゲームを連想させるボキャブラリーが多い。この曲もきっとそうなのだろう。おじさん知らないけれども。そして、この上品さをアジャストしているのは高橋くんのボーカルの破壊・・・、いや、この曲のサビの終わりはもう完全に一音ハズれていないか。それにしても25才はロック・スターが最高傑作を出す年なんだよね。例を挙げればきりがないよ、『ROCK'N'ROLL1500』とかね。

05.シンデレラ

昆虫キッズにはもう一人、冷牟田くんという優れたコンポーザー/プレイヤーがいて、彼の存在も実に偉大だ。もし冷牟田くんが昆虫キッズを脱退するようなことがあれば、おれは生涯二度と「昆虫」とも「キッズ」とも口にしないだろう。冷牟田くんは以前から豊田道倫のファンだったらしく、この曲の町の描き方にも豊田の影響を感じる。冷牟田くんはエキゾチックな美青年&無口なのでよく留学生に間違われて聞いたことない言語で話しかけられたりするらしい。彼の視線の鋭さと音色のチョイスのセンスには懐かしさも感じる。15年前の大国町ベアーズには冷牟田くんみたいな若者がいっぱいいたのだ。この曲の後半、のもとさんがリードするコーラス部分のキュートネスよ。ハピネスよ。何の因果か2009年、おれは昆虫キッズに出会った。その事実を誇りに思う。

06.27歳

ペナペナのギターで描かれる青春の終わり。否定形の文節が多い27歳。だいいちタニシが心に張り付いている。でも、昆虫キッズはポップだ。こいつら、美しい。おれは美しいものを見たい。そう思い続けてもうすぐ43歳になるぜ。27歳で死んだジャンキーたちの名前は決して美しくない。「ブライアン・ジョーンズ/ジム・モリスン/ジャニス・ジョプリン/ジミ・ヘンドリックス」。汚らしい濁音だらけだ。「ジョプリン」て何だよ「ジョプリン」て。ウンコの擬音にしか思えない。その点、昆虫キッズの名前は美しい。「タカハシ・ショー/サクマ・ユータ/ヒヤムタ・ケー/ノモト・ナツヨ」。おれは美しいものを見たい。

07.かわうそのワルツ

漂うような静かなアレンジで重層的に歌詞が進行する不思議な曲。何だか寒そうなメロディ。のもとさんのウィスパーも冷たくて、窒息しそうな、貧血を起こしそうなマジカルな音楽。おっと、今、気づいたけど、この曲には「ジョンのサン」のメンバーが客演しているとクレジットに書いてあるぞ。あえて言うならマヘル・ハラル・ハシュ・バズの末裔という感じか。そんな末裔はジョンのサンに任せて、昆虫キッズはあくまでグランジでシューゲイザーでベースボールベアーな道を歩んでほしい(ウソです)。

08.茜の国

昆虫キッズのオリジナリティを高めている事柄に佐久間裕太のドラミングの特異さも挙げられる。まさに緩急自在。適応能力の素晴らしさ。この曲みたいな速いテンポでのスネアの手数の多さは、昆虫キッズがパンクスであり続ける象徴でもある。そして、きっと普通に新卒で入社してもいちばん出世しそうなソツのなさと器用さを備えている。っていうか、とにかくよくしゃべる。いや、こうして考えてみると、非常に特異な要素の詰まったバンドであるということがわかる。この人たち全員おかしいです。

09.恋人たち

おじさんたちが昆虫キッズに魅力を感じるのは、彼らの描く情景がフリッパーズ・ギターの文法に近いからかもしれないなあ。そういう懐かしさを湛えているのは事実でしょ。高橋くんと冷牟田くん。どっちが小沢でどっちが小山田。このバンドには最初から渡辺満里奈級の可愛い子がいるぜ。そして、そんな回顧趣味を目の前でぶち壊してくれる若さと歌唱力のダイナミズム。それらを濃縮した昆虫キッズ、この一曲。やっと会えたね、辻仁成。

10.いつか誰とも会わない日々を

昆虫キッズの演奏には崩落寸前の廃墟ビルの屋上で大騒ぎしているかのような危うさが常にある。彼らにはいつでもぶっ壊れる準備がある。高橋くんの持つ狂気は、バイオレンスを売りにする他のバンドのフロントマンのそれとは異質だ。文脈に従った論理的な発狂だから、その精度も熱量も高い。そのへんの通り魔みたいなバンドはきっと腕も細いんだろ。殺せないよ、おまえらには。でも高橋くんの場合は背も高いから角度がある。狙った角度から全体重を傾けて突き刺す。悲しいけど、優しい昆虫キッズ。そして、基本的にキチガイだ。本当は怖い昆虫キッズ。

11.胸が痛い

The Flaming LipsかPale Saintsのアルバムでいちばん良い曲を倍速で演奏したかのようなキャッチーでハッピーな名曲。総括しよう。「めちゃくちゃ良い曲を作ってる」「全員ルックスが良くて、特にベースの女の子が可愛い」「ボーカルが音痴」。この3点が昆虫キッズの最大の魅力であり、パブリック・イメージということで良いだろう。結局「高橋くんのこと音痴とか言って申し訳なかったなあ」という書き出しだったが、アルバムを通して聴いたら誰でもわかります。先生、この人、音程合ってません。そして、音程合ってない状態で、どこまで行けるか昆虫キッズ。音程なんてどうでもいいんだよ。おれは美しいものが見たい。それだけだ。
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by kamekitix | 2009-12-13 01:00 | Review
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