麓健一『コロニー』

 正月に少しだけ大阪へ帰っていて、二十代の頃に通いつめたライブハウスでイベントを見た。地下鉄で実家へ帰れるのに、その夜は友達と西成のホテルに泊まった。

 イベントは久しぶりに会う友達がたくさん出演していて、楽しかった。出演者以外にも多くの旧友に再会。面白い人はやっぱり面白くて、つまらないやつは相変わらずつまらなかった。来てると思ったのに来てない人も多かった。その名前をいちいちメモしたりしないけど、自分の求心力の低下を感じる。おれはそんなに義理を欠いたつもりはないけどなぁ。むしろ、大いに感謝されるべきだと思っていて、そういう恩着せがましさがおれの嫌われるところなのだろう。いや、嫌われることをしたつもりはないけどなぁ。まぁ「つまらないやつは相変わらずつまらなかった」なんて書いてしまうおっさんを誰も愛する気にはならないだろうな、普通。

 日本橋の王将で打ち上げの後、竹野さんと新村さんと豊田くんと古林と塩ちゃんとりっちゃんで難波屋に行く。ターンテーブルに乗ったオフコースのLPが良い音を鳴らしていた。

 その後、SHOGUNとボズ・スキャッグス。深夜2時、西成警察署隣の立ち飲み酒場の奥で。素敵な新年会だった。

 翌朝、飛田新地の近くの喫茶店でおっさん四人でゆっくりとモーニングを食べて、昼は一人で中崎町でアイドルのイベントを見て、夕方の新幹線で東京に戻った。リュックを背負ったまま下北沢へ行き、山本精一さんと鴨田潤くんのライブ。鴨やんは歌手としてステージに上がる覚悟を感じさせる伸びやかな大声が印象的で、山本さんは『なぞなぞ』からの曲が相変わらず良かった。でも最後の「来場されたお客さんのテーマソングを作る」という余興がひどく長くて退屈だった。ステージに上げられた観客の人が何とも愛しくない感じの男性で「なぜこの人はこんなに不快なんだろう」と逆の興味を持って見ていたのだが、彼が投げられたすべての会話を「え?」あるいは「いや…」で返すことに気づいた。そのコミュニケーションの不愉快さ。「山本・鴨田の手による”彼のテーマソング”がどんなに素敵な曲であったとしてもおれは絶対に感動しない」と決め付けて、おれは上演中の店を出た。

 下北沢で会った女性が神戸でイベントをしている人で、年末に麓健一のライブを主催したようだ。そう言えば、豊田くんが12月に「麓健一の新作が届いたから年末を乗り越えられそう」みたいなツイートをしていたっけ。買い忘れていた。

 翌週、日曜の昼、渋谷でアイドルのイベントを見て、隣のブックオフでボズ・スキャッグスのベスト。ビレバンで西村賢太『二度はゆけぬ町の地図』。タワーレコードで麓健一『コロニー』を買う。

 『コロニー』は美しくて力強いアルバムだ。静かなアレンジなので地味な印象だがメロディはキュートでポップスとして成立している。オリコンウィークリーチャートに入ってよい。トクマルシューゴが売れて彼が売れないのはおかしい。でも、あまり女性には人気がないらしいと誰かが言っていた。女性が聴くと同性には見えない何か邪悪なものが見えるのかもしれない。歌詞は淋しくて、儚い。混乱して救いようがなく見えるところもあるけど絶望的かというと、そうではない。

 たたえよ いつかのこと
 たたえよ あの時のこと
 たたえよ 小さなこと
 たたえよ 辿ってきたこと
 たたえよ あなたのこと
 たたえよ 離れていっても
 たたえよ もう一度だけ
 たたえよ 出会えたことを
 (「たたえよたたえよ」)

 希望が遠くに灯っているのが見える、優しい歌だ。客演のミュージシャンたちも揃って温かい音を出している。コーラスで参加している高田正子(にせんねんもんだい)は、もっと唄うべきだろう。彼女がこんなにも味のあるボーカリストだとは知らなかった。

 金曜夜、豊田くんと待ち合わせ。彼は渋谷である先輩シンガーのライブを観ていたので、打ち上げに連れて行ってくれるのかと思ったら一人でセンター街に現れて、ひどい咳をしながら、今夜のライブがいかにつまらなかったかを話しだした。喫茶店で正月の大阪を回想。道玄坂の王将へ向かいながら彼は「歌を唄うことは大変だ」と言った。

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麓健一『コロニー』(2011/12/14/KITI-007)
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by kamekitix | 2012-01-23 08:30 | Review
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