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『m t v』

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『東京の恋人』をHEADZからリリースしたのは、2005年のことで、それは、自分にとってはかなり遠く感じてしまう。
あれから8年経ったが、この8年は一言で言えば「苦しくて、自分を思い知った」年月だった。

少し時間は遡るが、『東京の恋人』の前年、2004年に出したのは『SING A SONG』という弾き語りの2枚組のアルバムだった。
当時のストック曲を全部録音してしまえと思い、一日でエンジニア内田直之くんと共に録音した。マスタリングはこの時はじめて作業をお願いした宇波拓くん。パッケージの写真は、この頃自分のソロライブの受付をしてくれていた梅佳代に貰ったスナップを使わせてもらった。まだ、今の「梅佳代」になる前だった。

このアルバムは自主で出したこともあり、宣伝はまるで出来なかったし、初回オーダー数がひどく低くて、がっくりしたが、リリースした頃に渋谷の本屋でHEADZ代表の佐々木敦さんに偶然会い、「アルバムよかった。次、何かやろうよ」と声を掛けてもらい、その翌年に『東京の恋人』をつくった。
ちょうどデビューして10年目だったので、このアルバムは10年頑張ってきたご褒美みたいなものかなと、たくさんのゲストに参加してもらい、自分では珍しく快活に一気に仕上げたアルバムだった。今でもとても気に入っている。

「子どもはつくらないかもしれない」という歌い出しから始まる「東京の恋人」。
この曲を作った時は、多分、自分はそろそろ東京から大阪に帰ろうと思っていたと思うが、あれから8年経って、ぼくは、まだ東京にいる。

色々なことがあった。
結婚、息子の誕生、離婚、友人の死。
4枚のアルバム、ライブ、ツアー。
3.11。

家庭の崩壊というのは、所詮アウトローを気取ったところで、本当は小市民的な生活に憧れていた自分にとっては思いがけずダメージは大きかった。
アウトローだからこそ、穏やかな家庭が必要だったとは思う。

これらをさっと思い返して、「苦しくて、自分を思い知った」とさっき書いたが、しかし、その出来事は、特にひどい、ということではなく、ひょっとしたら世間にはありふれたものと言えるかもしれない。
そして、よくよく小さな出来事をひとつひとつ思い出してみると、思わず笑い出してしまうような楽しい出来事もたくさんあったし、嬉しいこともたくさんあったし、呑気に生きて来たとも言えななくはない。

しかし、加地等、bun。この二人の友人の死は突然すぎた。
同い年で、大阪出身で、すごいミュージシャンだった。
少し年上の奈良県明日香村に住む弓場宗治も亡くなった。


色々な情景があった。
それらを鮮やかに思い出せるのは、自分には音楽があり、どんな時も歌をひたすら作ってきて、また、色々な音楽、歌に耳を澄ませてきたからだと思う。

2009年、曽我部恵一くんプロデュースによる『ギター』、昆虫キッズとの『ABCD』、2010年は40歳記念コンサートのために作った弾き語り『バイブル』、2011年元旦にはザーメンズとの『アンダーグラウンドパレス』。

これらのアルバムを作った時、それぞれに吐き出すのに必死だったが、まだまだ納得が出来なかったのか、曲は書いても書いても生まれて来た。ライブでひたすら新しい曲をやり、お客の数も減ってきた。

このままではまずいかな、でも、アルバムをどうやって作ったらいいのかもわからなくなってきた。ストック曲を録音するだけで、3枚組になってしまう。それでもいいか?いや、それは楽しめないと思う。自問自答が続いた。

去年の夏、ふと思い立ち、EPを作ることにした。
共同制作に宇波拓くんにお願いしたくて、声を掛けた。彼とはアルバムの何曲か、プロデュース作などで一緒にやったが、自分の音源制作に正式に招き入れるのははじめてのことだった。
半ば様子見で作業が始まったが、なかなかうまくいって、8月に『The End Of The Tour』をリリースした。

出来上がって、岩淵弘樹監督によるPVを作ってYouTubeにもアップした。反響はまずまずだった。
そして仕上がった曲をちゃんと聴いてるうちに、この曲は「東京の恋人」の続編だと思った。
やっと、次に行けたかもしれないと思った。

わずか4小節だけのコーラスに川本真琴さんに来てもらって、無意識のうちに、ミックスは「東京の恋人」と同じ右の定位に川本さんの声を置いていた。
まるで、ずっと、そこに川本さんの椅子が置いてあるかのようだった。

この曲は、大阪の西成という街を舞台にしているが、そこで歌っているのは、まぎれもない自分の「東京」だった。

このまま一気にアルバムまでやってしまおうとも思ったが、まだどうやっていいのかわからず、冬に、自分が19歳の時に書いた『幻の水族館』をEPで出した。

その頃、チャットモンチーの『変身』というアルバムがとても好きだった。
好きな日本のシンガー、ミュージシャンはたくさんいるが、邦楽で一枚のアルバムを繰り返し聴くようなことは久しくなかった。
トリオ編成だった時のチャットモンチーに触れたことは見事になくて、このアルバムから知ったバンドだったが、日本語のアルバムもまだまだ聴けるものあるんだな、と感激して、自分でもまたアルバムを作りたくなった。『変身』に負けないようなポップなアルバムを。

ポップというのは一番むつかしい、と言っていたのは山本精一さんだったと思う。
3枚分のストック曲を、ただ順番に録音して並べたら、それなりの凄みのあるものになるかもしれないが、自分ではそんなもの聴きたくはないし、ひとに売りつけたくはない。
ポップなアルバムが自分に出来るかどうかわからなかったが、宇波拓との2枚のEPの制作で、ほのかな自信も出て来た。
宇波くんは、ミュージシャンであり、エンジニアであり、アルバム制作の片腕としては最高の人間である。
彼の表面には出て来ないが、強固なロックスピリットは優秀なだけではない「熱さ」が音に帯びる。

去年から、HEADZのA&R荻原さんとミーティングは行っていた。
『東京の恋人』の頃とは状況は違う上、自分のセールスのパワーダウンも熟知していたので、予算が出るだけでも有り難いと思った。EPに引き続き、宇波拓くんとの共同プロデュースで制作することになった。

アルバム録音の初日は、テスト的に始まった。曲は「鈍行列車に乗って」。
それから約一ヶ月と一週間、連日詰めて作業に入っていたわけではないが、自分の中ではこの間、アルバム制作のことしかしなかった。

最終的に、どう「ポップ」に自分の音楽を落とし込もうかと、作業が進む中で考えていた。ミックス最終日まで歌入れをし、出来たばかりのアルバムタイトル曲を録音した。宇波くんは最後まで、実に辛抱強く作業してくれた。

当初は誰かのためのポップと考えていたが、作業が終わる頃には、とにかく自分を奮い立たせるためとしか考えられなかった。
プライベートで、諸々な複雑な状況が生まれ、どうしていいのかわからないまま、半ば思考停止にしたまま、とにかく作業に集中した。
自分に必要なものを、ただ作らなければと思った。

ミックス作業が大詰めの中、ジャケット写真のため、梅佳代とのフォトセッションを行った。
新宿の喫茶店で待ち合わせして、街を色々歩いた。新宿、原宿、渋谷。最後は西大島の馴染みの焼き肉屋で、打ち上げした。
梅さんとは、10年くらい前に大阪で出会った。
「一緒に写真、撮ってくれますか?」と声掛けられて、連絡先を交換して、やがて上京して、ライブの受付をしてもらって、よく食事をしたり、お茶をした。
もうすぐオペラシティーで展覧会をやる彼女は、あの頃と何も変わらず、フィルムで撮影して、ビックカメラに現像を頼んでいた。

そして、自分にとって初の海外マスタリングをアビーロード・スタジオにオーダーして、その仕上がりに、とても満足している。
幼少の頃、一年間だけロンドン郊外で過ごした日々が、ふと蘇って来る。
住んでいたsouthgateという街並み、柔らかな陽差し、紅茶、小学校のおやつに毎日持参したポテトチップス、風邪をひいた時に父親が買って来てくれたチャイニーズのデリバリー(その味がとても好きだった)、赤いバス、コインラインドリー、金髪の綺麗だった友達....

東京で生きて来て格闘した日々を、優しく穏やかなフォルムで包んでくれ、それでいてロックの香りは消えていない。
「MT、おまえは間違っていない。このまま歩きな!」と言われているかのようで、自信を持って世に送り出せるアルバムとなった。

自分にチャンスを与えてくれたHEADZ、そして、今作に関わってくれた人達に感謝は尽きない。

どうもありがとう。


このアルバム『m t v』が、あなたにとって明るく鳴ってくれたらいいなと思っている。

豊田道倫

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豊田道倫『m t v』

(WEATHER 058 / HEADZ 176)
¥ 2,500 [税抜価格 ¥ 2,381]
2013年3月21日発売

1. 少年はパンを買いに行く
2. 抱っこ先生
3. 桜空港
4. 赤いイヤフォン
5. 3丁目9番16号
6. ブルーチェア
7. 幻の水族館
8. あいつのキス
9. オートバイ
10. The End Of The Tour
11. City Lights 2039
12. m t v
13. 鈍行列車に乗って

songs:豊田道倫
produce & sounds:豊田道倫 & 宇波拓
recording & mixing:宇波拓
recorded & mixed at hibari studio, l-e, ACE STUDIO(Aug. 2012~Feb. 2013)
mastered by Alex Wharton at Abbey Road Studios(Feb. 2013)
guests:のもとなつよ(昆虫キッズ / Solid Afro): vocal(M2)、佳村萠: vocal(M4)、じゅんじゅん: vocal(M7)、三輪二郎: vocal & whistle(M9)、odd eyes: voice(M10)、川本真琴: vocal(M10)、久下惠生: drums(M10, 11)& drum samples(M1, 6, 13)、向島ゆり子: violin(M13)


by kamekitix | 2013-03-21 18:40 | Information
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