名盤カウントダウン_100_PRINCESS TINYMEAT 『HERSTORY』

ヴァージン・プルーンズというアイルランドのバンドは盟友U2と人気を二分するスターだった。

日本では「ポジパン」とカテゴライズされゴシック系の始祖とされる。白塗りメイクと演劇的要素の強いライブ。異端、異教徒というキーワードで耽美的退廃的なムードを醸しだし熱狂的な人気を博した。代表作『...If I Die, I Die』は1982年リリース。

U2ほどの商業的成功をおさめなかったものの、多くのエピゴーネンを産んだ偉大なプルーンズ。短期間だがそのメンバーだったビンティが1984年に結成したのがプリンセス・タイニーミートだった。

初めてプリンセス・タイニーミートを聴いたのはたしか石原さんにもらったカセットだった。高槻に住む石原さんはぼくより二歳上で、当時すでに社会人で、たくさんレコードを買っていて定期的にセレクト・カセットを送ってくれる優しくてありがたい先輩だった。

石原さんのカセットに入っていたのはセカンド・シングルの「A Bun In The Oven」(1985)。ごく短い曲だが、このインパクトは相当大きかった。


全編を覆う轟音とやけにポップなフィンガースナップ。トランスジェンダーな歌声。展開に無関係で不随意に鳴っている何かしらの物音。唐突なエンディング。不条理で理不尽で醜怪なポップスとの出会いに興奮した。

プリンセス・タイニーミートはその前年1984年にシングル「Sloblands / The Fairest Of Them All」でラフ・トレードからデビューしていたが、その時点ですでに大いに物議を呼んでいたようだ。なにせジャケットの表にも裏にもちんちん丸出し無修正写真を使用していたのだ。
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まあ、おちんちんならぼくも一本持っているしそんなに珍しくなかったので、そちらの話題にはあまり惹かれなかったのだが「A Bun In The Oven」の音像に魅せられて、レコードを探した。

1986年にプリンセス・タイニーミートが収録されたレコードがリリースされるという情報を得た(フールズ・メイトで)。
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『You Bet We've Got Something Against You』(「おまえに対抗する何かを手に入れたから賭けてみろ」?)という実にオルタナティブなタイトルのオムニバスLPだった。

これはこれで名盤で、珍しいソニック・ユースのライヴやマーク・スチュアート&ザ・マフィア、バンド・オブ・ホーリー・ジョイなども収録されていて愛聴した。

しかし、このLPの最初と最後に収録されている「これ聴きたいから買ったプリンセス・タイニーミートの二曲」が「えっ」と思うほど衝撃的だったのだ。
「Lucky Bag」はラッキーでもバッグでもない謎の野外ノイズ。ガハハハと男女の笑い声で終わる1分ほどのトラック。「Jay Gone Bimbo」という曲は昔のSP盤みたいなスクラッチ・ノイズに乗せて脳性麻痺の人が話す聞き取りにくい発話や断末魔にも聞こえる悲鳴のような声を多重録音しただけの、もはや音楽とは呼べないレベルのトラック。

そして、翌年には、こんな極端なトラックをも含みつつ、既発3枚のEP全曲を網羅した奇跡のフル・アルバム『HERSTORY』が発売された。日本版のCDをおれは持っていて、インナーディレクツの宮部知彦さんがライナーを書いている。宮部さんといえば日本のポジパンをディレクションし、ポジパン・シーンの女神と崇められたG-シュミットのSYOKO嬢と結婚したことでも知られる、という話は余談。
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ヴァージン・プルーンズという異教徒集団からさえも逸脱したいわば異端の中の異端。プルーンズよりさらにマージナルかつ外道。プリンセス・タイニーミートはそのビジュアル的な衝撃も含めて、時が経つほどに愛しくなっていく奇怪で不思議で理解不能な、でも明らかにポップなバンドだった。

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最近ちゃんと音楽レビューを書いてない気がして「これはいかんな」と今朝思い立った。

なにか書こうと思うのだが、新しい音楽について食指が進まないのに無理して書くと「何某の二番煎じ」「この手は飽きた」「奇妙礼太郎なんてニセモノ」などと評してしまい、それらを楽しんでいる若者や商売をされているひとたちにとって不快かつ結局おのれの錆びゆくセンスを露呈するばかりのいわく老害に他ならぬ顛末が見えてる。

そこで「自分にしか書けないもの」について、かつて愛好し今でもわが胸中に在る音楽について書けばよいのではないかと思い至った。当時の追憶など併記したりしてね。

懐かしい音楽をまるで最新の最先端の音楽みたいに無邪気にレビューするという試みはおれの自己顕示欲を満たすと同時に誰の気分も害さないという一石二鳥の企画であるといえよう。

バイバイ
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by kamekitix | 2014-06-30 01:23 | Review
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