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豊田道倫 『SHINE ALL AROUND』



WEATHER 069 / UNKNOWNMIX 41 / HEADZ 211
発売日:2015年12月30日(水)
定価:2,400円 + 税

01. 雨の夜のバスから見える
02. SHINE ALL AROUND
03. ありふれたジャンパー
04. そこに座ろうか
05. 愛したから
06. 24時間営業のとんかつ屋
07. どうして男は
08. ともしび商店街
09. サイボーグの渋谷、冬
10. 帰省
11. I Like You
12. 小さな公園
13. Girl Like You
14. 倒れかけた夜に
15. Tokyo-Osaka-San Francisco
16. また朝が来るなんて

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豊田道倫が誰かに助言を求めているのを見たことがあるかい。おれは一度もない。「Bluetoothのイヤフォン」という歌詞を「ブルートゥルース」と歌っていたので「ブルートゥースやで」と指摘したことはある。知り合って22年いろいろ提案やアドバイスをしてきたが聞き入れられたのはそれだけだ。徹底的に自分のことを自分の手法で歌い続けてきた豊田はそのコアな表現方法ゆえにメジャー・アーティストとして大きな利潤を生むことはなかった。いつでも世論は軽薄な皮相にあり何枚も皮を剥かねば露出しない彼の本質が一般大衆に消費されることはおそらく今後もない。それでもまた朝が来るなんて。わけがわからなくて笑ってばかりの20年。最高にファニーでヒップでロックな歌手が日本にいる。『SHINE ALL AROUND』を聴けば、誰にでもわかることなんだけど。

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01. 雨の夜のバスから見える
mtvBANDによるニューウェーヴなダンス・チューンで軽快に始まる『SHINE ALL AROUND』。ギターのフレーズなどストイックかつクールでひねくれていてSTEREOLABのミニマリズムを思わせる。実はおれはSTEREOLAB最強説を唱える者でありニュー・オーダーよりマイブラよりSTEREOLABが好きかも、と、こないだ思った。バスの車窓から世界を膨らませるMTリリックの普遍的手法のひとつ。彼は最近車の運転をしていないようだ。

02. SHINE ALL AROUND
工藤冬里さんによる作品。資料には「予測不可能なアルバム・タイトル・トラック」とある。『ROCK’N’ROLL 1500』における弓場や尾崎やおれの役目を冬里さんがひとりで担ってくれたようなキャスティングだと想像すると、このほんの数秒の奇怪な音像は、もう充分な長さである。

03. ありふれたジャンパー
最近のライブで圧倒的な存在感を放っている曲。佐野元春コンシャスな節回しと情景のカット割り、MT特有のシャウトが共存するキャッチーな名曲。『SHINE ALL AROUND』からシングル・カットするならまずこの曲だろう。U-zhaanのタブラだけ従えた贅沢なアレンジ。mtvBANDでがっつり録音してほしいところだが、意表を突いた。


04. そこに座ろうか
9月に発売されたシングル。この曲は本当に凄くて、世界中のひとがひっくり返ってビックリしていいと思うのだが、特に驚天動地の騒ぎが起こったというニュースは耳にしない。誰も聴いていないのだろうか。何がどう凄いのかを盆休みに書いたので以下再掲。主旋律を凌駕せんとする勢いの妖艶なハモリは鈴木祥子さん。根源的マイブラ愛に満ちた怒涛のシューゲイザー。久下さんのパンパンに張ったスネアの激烈なフィルイン。目の眩むような浮遊感を放つ、聞いたことないコード展開のサビ・メロ。しかもサビは一回しか演奏されないという狂気のアレンジ。これほど緊張感の漲るバンドは他にない。まさに極道ロック。


05. 愛したから
割と平面的な感じで淡々と演じられる愛のグラフィティ。かっこいいピンク映画を観たような気分になる。これこそ弾き語りっぽいナンバーなのにまた意表を突いてバンド編成での録音。モテモテMT愛の独白にエッジの効いたメンツが彩りを添える感じが静かにトゥー・マッチ。

06. 24時間営業のとんかつ屋
まず「24時間営業 とんかつ屋 目黒」で検索だ。深夜営業の店はあるけど24時間営業は見当たらないぞ。まぁ個人的にとんかつに思い入れはなく、今後死ぬまでとんかつ食べられないと宣告されても別にいいです。MTは何でもよく食べるね。この曲はmtvBANDによるコミカルなアレンジ。四拍の轟音ロックが散りばめられたキュートな肉食礼賛ソングで、おれみたいな草食系優男へのカウンター・パンチ。

07. どうして男は
ベースを前面に出した珍しいアレンジだな、と思ってクレジットを確認すると岩崎なおみさん(Controversial Spark)による客演。この歌詞はまったく他人事ではなくて、おれが急に自殺したらこの曲のせいだと思ってください。

08. ともしび商店街
弾き語りでよく歌われている最近の定番曲。展開は少ないが、前曲に引き続きドライブしまくる岩崎さんのベースにトンチさんのスティールパンまで繰り出した終盤は爽やかでさえある。おれはスティールパンの音が好きで今年はその名も『STEEL LOVE』というオムニバスCDを買ったりした。Earl Brooks最高。この曲の歌詞は正直よくわからない。安いテレビは「飛行機に乗ってどっかへ行ったあいつ」と一緒に商店街で買ったのだろうか。おれも「本気じゃない」みたいなことをよく言われる。しかし、そもそも「本気」って何。最後はなんだかカッコイイ。この世界そのものが「ともしび商店街」なのかもしれない。ともしび商店街に薬局はあるだろうか。足を捻挫して痛くてロキソニンを買いたいのですが。

09. サイボーグの渋谷、冬
チキチキしたリズム・トラックに乗せて歌いだすのは冷牟田敬。そのあとMTと合唱していくのだが、後半になってこのリズムが打ち込みじゃなくて久下さんのエレドラなのではないかと想像できて「このレコーディング楽しそう」と思った。まさに「サイボーグの渋谷、冬」。そうとしか言えない。

10. 帰省
今年母を亡くし、父は28年前に死んでいるので、帰省する理由を失ったおれにとっては少し感傷的な歌詞。かなり具体的なタッチで親子三代の愛情が描かれていて、ちょっと切ないけど温かくて力強い。カンパニー松尾さんの録音による弾き語りライブ・テイクとバンドでのスタジオ新録をジョイントしたと思われる。バンド・テイクはmtvBAND本領発揮の爆裂サウンド。

11. I Like You
2015年ベスト・シングル。1993年にもらったパラダイス・ガラージのカセットの衝撃が甦る。歌詞のすっとぼけぶりと仄かな恋の情景がフレッシュ&ラッスンゴレライ。今ようやく気づいたけど「おねえさん」のところだけ冷牟田くんが歌ってるんだな。シングルと違って長いアウトロにMMEEGG!!!という女性のコーラスがトッピングされている。画像検索したらなんだか美女じゃないですか。今度紹介してください。この22年間、MTとわたくしはたくさんの女性を紹介し合ってきました。この話は長くなるのでまたの機会に。


12. 小さな公園
加地等のカバーをウクレレ弾き語りで。2011年に急死した同い年のシンガー。MTの詩に頻出する「消えたあいつ」の象徴的なひとりと言えるだろう。これはお節介な言い草だが、加地くんを支えた関係者たちの消息が頼りなくなりつつあるのもMTの自己投影を駆り立てる一因になっているのかもしれない。「思わず口ずさむ無意味な鼻歌を君にあげよう」と歌った加地くんのだらしなくも優しい姿、二度しか会ってないけど、おれも忘れられない。

13. Girl Like You
彼のディスコグラフィの中でひときわ異彩を放つインスト・アルバム『アプローチ』がおれは大好きなのだが、20周年記念アルバムということで『アプローチ』的な作品を録音したのかな。でもこれバンドで録ってるっぽいからエレキギターは冷牟田くんなのかな。謎が多い1分半のインスト。

14. 倒れかけた夜に
宣伝動画を観ると『SHINE ALL AROUND』のリード曲っぽい感じでしょうか。ポップなパンク・チューンだが、コードが複雑であまり一般的な展開でないことは、ギターを弾けないおれにでも理解できる。終盤加速するドライブ感はまるでダムド。以前も無意識にストゥージズに似たフレーズを弾いた曲もあったし、mtvBANDとオリジナル・パンクの近似性について分析してくれるライターはいないかな。

15. Tokyo-Osaka-San Francisco
即興と思われるモノローグの部分で爆笑。本人もちょっと笑ってるやん(笑)。「Tokyo-Osaka-San Francisco」最高。これは『ROCK’N’ROLL 1500』でいうと「LOVE on the beach」みたいな役割か。この曲をライブでやるなら弓場に代わっておれがラップしたいよ。

16. また朝が来るなんて
川本真琴さんを贅沢にキャスティング。タイトルだけ見ると絶望的な夜を思わせるが、これは希望に満ちた曲であり、ラジオ体操のときによく聞いた「新しい朝が来た希望の朝だ」という歌に近い。今、ネット検索したらあの歌のタイトルは「ラジオ体操の歌」というのだな。どうでもいい豆知識ばかり毎日増えていく。どうでもいい豆知識ばかり増やしておれはどこに行くのだろう。死刑囚がいるのは刑務所じゃなくて拘置所だ。命はいつまで燃えるだろう。まったくわけがわからない。また朝が来るなんて。笑ってしまう。『ROCK’N’ROLL 1500』から20年。あっという間だ。50周年を祝えるように長生きしよう。









by kamekitix | 2015-12-29 10:00