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lovely music listened to on Spotify‗2020

いくつかの音楽情報サイトを見て気になる作品をSpotifyで検索して「ライブラリーに追加」することが新しい音楽を入手するメインの手段となっているここ数年のわい、めっきりレコード屋さんに行かなくなった。これはいかんと思い会社の近くで見つけた素敵なレコード店「FILE-UNDER」でMcCarthyのEPとTHE ACT WE ACTのCDを買った夏。店主の山田さんは少し年上だろうか。私のリップ・リグ&パニックTシャツに反応して声をかけてくださり初対面なのに結構話し込んでしまった。大須の交差点「角屋」の隣のセブン-イレブンを曲がった先。ZOOとグレヒの中間に位置する。「最近は学生さんがカセットをよく買ってくれます」「ステラ・ドネリーみたいなアイコンが登場すると女の子のお客さんが一瞬増えますね」と話されていた。


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もはや現存する最古のファクトリー・バンドという趣きのACRが相変わらずもっさりしたearly80sテイストの新譜をリリースする信頼感。私が最も敬愛する孤高のギタリスト=ヴィ二・ライリー(ドゥルッティ・コラム)の近影はずいぶん老人の容貌だが、ACRはまだ若々しい。来日時のフィールド・レコーディングをフィーチャーした「Yo Yo Gi」にも親近感。彼らのバンド名は「現状維持」とも意訳できるだろう。40年以上「一定の比率」を保つ奇跡のマンチェスター・ファンク。


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アメリカの全州をテーマにしたアルバムを50個作る人として有名だったが、私の知る限り(すなわちSpotifyでは)「ミシガン」と「イリノイ」しか完成していないようだ。ハッピーで牧歌的なアーティストだと思ってた彼の久しぶりの新譜はシリアスなムードで歌詞にもナーバスな否定形が目立つが、エレクトロニカに急接近したアレンジと心地よいコード展開がキャッチーなセンスを隠し切れない。えっ最近エレクトロニカって言葉使わないの。12分以上にわたるラスト曲で「Don't do me what you did to America」と連呼するアイロニーは病んだ2020の産物に違いない。


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在宅リモートワークが気に入ってしまって週一回しか会社に行ってない私。すごく楽だが明らかに運動不足だ。会社のみなさんとのやりとりはG Suite改めGoogle Workspace Businessとサイボウズのkintoneで完結する。ホイットニーを知ったのは会社の女の子のInstagram。彼女のストーリーが私のSpotifyに与える影響は大きくて去年はソランジュとかClairoとかNOT WONKとか教えてもらった。中性的なハイトーンが印象的なシカゴの男性デュオ。このアルバムはカバー集だが渋い選曲で、私が知っているのはジョン・デンバー「カントリー・ロード」とデヴィッド・バーン&ブライアン・イーノ「Strange Overtones」だけだった。アコースティックで丁寧なアレンジ。この人たちは本当に音楽が好きなのだなぁと温かい気持ちになる。そして30才年下の女の子から教わる新しい音楽は良いなぁと思う


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なんだか会社のアンケートみたいなので性別を入力するのにプルダウンが「男 / 女 / その他」となっていて「未来がやってきたな」と思い、迷わず「その他」を選択した。生物学上でも戸籍でも嗜好でもなく、恣意的に性別をセレクトできるなら断然「その他」がいい。「男か女か」と問われれば「男」と答えるが「その他」が選べるならそりゃ「その他」でしょ。こっちは何年もオルタナティブやってるんだから。Lemon Twigsの最近のライブ映像を見るとマイケル・ダダリオのジェンダーレスが加速しているようで、細い二の腕や短いシャツから覗く背中が少女のように可愛い。一昨年ライブを観たが振る舞いは変わらず少年のように粗暴だ。ここで「少女のように」「少年のように」などと書いている時点でジェンダーに対するおれの低い意識が露呈する。待望のニューアルバムはFILE-UNDERの壁にも入荷したばかりのLPが飾られていた。期待どおり変幻自在、凝りまくり練りに練られた濃密な12曲。しかし、典型的な70'sロックのイディオムで成立しているので、おそらく地元では「若いのに古臭い音楽やってる変な兄弟」という扱いなのだろうな。クイーンやエルトン・ジョンみたいなスターになる日は来るだろうか。


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「おじチャット」はFacebook Messengerによるグループ・チャットで、参加しているキングジョー・kongchang・磯部さん・リオくんが目を覚ましている時間はほぼ常駐し随時情報交換をしている。この四人で世界のだいたいの問題は解決できており、また、おじチャットは私のテキストが最も研ぎ澄まされ冴えわたり輝く媒体でもある。kongchangの博覧強記ぶりは先のDOMMUNE「mid90s」特集でもその一端が開帳されたが、彼は誰もが知る有名キャラクターのTwitterアカウントの中の人だったり、全国民が愛用するチェーン店のノベルティを制作したりしつつ、だっれも知らん地下アイドルのトレンドを共有してくれるという恐ろしく振幅の広い粋人だ。最近のアイドルポップスの佳曲をたくさん教えてもらったが、今年最も気に入ったのがPOMEROだった。どこの事務所かも知らないしメンバーの顔さえきちんと見ていませんがSpotifyにある音源だけで評価したい。POMEROはシティ・ポップ・ブームにも媚びず、過剰に求心的なエモさにも頼らず、トリッキーなコンセプトも売りにしないようだ。それでもアイディアを感じる旋律とベースライン、確実に踊れるグルーヴにトラック・メイキングへの真摯な姿勢を感じる。ラップのパートも実に適量。昨今のアイドル界の趨勢をまったく知らないが王道みたいなものがいまだにあるとすればPOMEROはきっと緩くて軽くて邪道なのだろう。ただ、私が「虹色ガール」を聴いたときの「アイドルポップスは、これでいいのだ」という感銘を記しておきたい。


YUKIKAは韓国で活動する日本人シンガー。寺本來可という名で能年玲奈や日南響子と同期の二コラ・モデルだった美女だ。これもkongchangの影響で、彼が買ったCDが実に面白そうだったので同じものをAmazonで買った。もはやCDという概念を超えたパッケージで、80ページの写真集、大判のポスター、パスポートを模した歌詞冊子、曲のタイトルがモチーフになったステッカー、プロマイドなどが手触りの良いラバー素材のケースに収められている。Die Tödliche Doris以来の衝撃と言えよう。このガジェット感は韓国ではポピュラーなのだろうか。今度長谷川陽平さんに訊いてみたい。華麗な転身を遂げたYUKIKAはラバー素材のケース同様に気持ち良いサウンドに包まれて流暢な韓国語でキュートに歌う。Especia亡き後、一十三十一や具島直子を聴き直したりしながら「ナツ・サマーはわかってない」などと愚痴っているおじさんたちはYUKIKAの投げ込む直球シティ・ポップをその出っ張った腹で受け止めろ。


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さっきも書いたけど私、この夏から週一出社なのですが、こないだびっくりすることがあった。音楽に関する大事なことだ。一週間ぶりに出社したらオフィスのBGMがおかしい。静かなピアノが鳴っているのだが不協和音ばかりでリズムも不規則だ。「エクスペリメンタル / アヴァンギャルド」のチャンネルでヤニス・クセナキスの新曲を流しているわけではないようだ。気持ち悪いんだもの。すぐに気づいたのですが、弊社はBGM流す事業をやっている会社でもあるので、フロアのアンプに音源たる機材を複数つないでいるのですね。それで誰かが間違えて2台のチューナーを同時に起動させてしまったので微妙に違うチャンネルが混ざって流れてたんですわ。これが今朝発生した不祥事ならよいのですが、もしかしたら私がいなかったこの一週間ずっと気持ち悪いマッシュアップ・ピアノがオフィスに流れ続けていたのかもしれないと考えると軽い怒りを覚え「おまえら(同僚の社員のみなさん)耳ないんか」と毒づきながらチューナーの電源を一個切った。「こいつら(きちんと出社している愛すべき同僚たち)にとって音楽とは何だろう」と考えてしまった。音楽なんて、あってもなくても良いものだ。少なくともあのBGMに違和感を覚えない人にとって音楽にはなんの効能もないだろう。でも私は常に自分にとって心地よい音楽を検索していてヴァレリア・ストイカに辿り着いた。私は音楽に何を求めているのだろう。飽きの来ない展開のコードワーク。丁寧に爪弾かれるアコースティック・ギターのアルペジオ。そして何より、透き通るように静かでキュートな歌声。それがモルドバ共和国出身の東欧美女であれば申し分ない。


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スカート澤部くんの言う「パラガ一派」にとって今年最大のトピックは豊田道倫の大阪への転居だろう。MTの「大阪帰る発言」は25年間定期的に繰り返されていて、去年秋にはかつてないほど具体的なプランを聞かされたが、2月になって「来月引っ越すので部屋を決めてきた」と知らされてさすがに驚いた。ZINE『キッチンにて』を読めば、3月27日に転居、4月30日にレコーディング、5月22日に配信リリースという時系列が判明する。彼はこの特別な二ヶ月を記録したかったのだろう。コロナ戒厳令下の大阪で新メンバーがバッキングした新曲。まったくフィルインのない角矢胡桃のドラム、唄うようなみのようへいのベース。Tokiyoの爆音ギターは規格外のフォームで唸りを上げる。比較するのは野暮だがmtvBANDが実に洗練されたプロ集団だったことを改めて思い知る。スキルの優劣はあるのだろうが、このNew Bandも最高。豊田がいつも最新モードなのは彼が常にインディヴィジュアルだからだ。25年前の春、上京する25才のMTを新大阪駅で見送った私としては彼の帰阪がなぜか嬉しくて、勝手に安心したような気持ちになるが、東京でMTの優しさに触れた友人たちの喪失感も容易に想像できる。また会いましょう。おれも混ぜてくれ。


残念ながら見に行けなかった夏のベアーズの豊田道倫&His New Band。YouTubeで公開された「UFOキャッチャー」は過去最高の夏の終わりで問答無用にUFOキャッチャーだ。これは見たかったなぁ。ギターのTokiyoさんのこのソロ・アルバムは一曲目が象徴的だ。正統派オルタナ・マナーのシューゲイザーのようだが明らかに異質なコードが混ざっていて、それがドリーミーな浮遊感を生む。英詩で歌われる旋律はキャッチーで終盤に挿入される日本語はロマンチック。全体的に『Pillows & Prayers』にでも収録されそうなシンプルな構成で静謐な印象だ。豊田バンドで聞かせる獰猛なギターは彼女のごく一面にすぎないのだなと思うと同時にあの轟音も無軌道に見えて実は上品に計算されているのかもしれないと想像する(これは内緒だが私はベアーズでのNew Bandのライブ全編を観客がiPhoneで盗聴したmp3データを入手して聴いているのだ!)。冷牟田敬のソロ・ライブを観て「弓場宗治が目指してたショーはこれだったのではないか」と書いたことがあるのだが「Outside of the Universe」も弓場が生きていたらきっと愛聴していたに違いない。


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とにかくTennisとTOPSはよく聴いた。たぶん昨年すごくハマったMen I Trustに似たアーティストを検索していて見つけたのだろう。そうでもしなければこんなつまらない名前のバンドに引っかかるわけがない。テニスのスイマーですよ。まったくやる気の出ないネーミングだ。Tennisはコロラド州デンバーの夫婦ユニット。船で旅に出て八ヶ月海上生活をしていたときにラジオから流れてきたシュレルズ「ベイビー・イッツ・ユー」 に衝撃を受けて「モータウンを経験したスティーヴィー・ニックス」というコンセプトで制作を始めたそうだ。つまり50's-70'sの王道ポップスへの憧憬と懐古趣味を隠そうとしない。私はその年代のロックやポップスについて知識がない。80年代以降の音楽にしか興味がなく、デヴィッド・ボウイの最高傑作は『レッツ・ダンス』だと主張する輩だ。Tennisもフリートウッド・マックの新譜だと思って聴いている気がする。ですので、Lemon Twigsもそうですが、こうした古典的なメソッドをきちんと現代のテイストに変換して聴かせてくれるアーティストから本質的なロックやポップスの構造と魅力を教えてもらっている気がしてありがたい。素晴らしいSpotifyの出会い。「最新の音楽は懐かしく最もセンチメンタルで最も根源的である。最新音楽を聞け」と17才の私に指南したのは『ロック・マガジン』(67号 / 1984年6月)における田中浩一の箴言集「エターナル・スピリッツ」だ。


そういうことなので最新音楽聴きたいおじさんであり続ける私にフィットするのがハローイチイチゼロサン。このアルバムに限らずSpotifyにあるトラックをすべてライブラリーに入れて聴いているが、Grouperの幽玄、Goldmundの荘厳、レイ・ハラカミの抒情、Orbitalの高揚、スクエアプッシャーの混沌などを混ぜ合わせたようなアンビエントかつミニマルな要素も入ったドローン中心のエレクトロニカ。えっ最近エレクトロニカって言葉使わないの。トラックメイカーとVJのコンビゆえグラフィックも凝っている。オフィシャル・サイトでかっこいいロゴのTシャツを販売していたので即購入。Hello1103は最新音楽聴きたいおじさんだけでなく今17才のきみにも聴いてほしい。年々健康診断の結果にチェック項目が増える。二年連続で聴力検査がB判定だ。ずっと耳鳴りがしてるので高い周波数の検査音が聞き取れない。自律神経失調のせいで耳鳴りがするのだろうと思って毎月ソラナックスを貰いに行ってるメンタル・クリニックの先生に相談したら「耳鳴りはたいてい加齢によるものです」と言われた。このブログに17才の読者はいない。


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これはもう3月のリリース時点で「今年のベストアルバム決定や」とツイートしたほどの名盤。metomeとspeedometer.という双璧をなす大阪エレクトロニカ巨匠と聡明なるマルチプレイヤー=浦朋恵が組んで「ダーク」かつ「トロピカル」なのだからもう音を聴くまでもなく着想だけで今年のベストアルバムに決まっている。エキゾチックでトライバルな音色が細部まで編み込まれた精緻な電子音と肉体性(肉コラムニストとしても活躍する浦ちゃんのフィジカルは高カロリーだ)が絶妙に溶け合い、私を謎の避暑地へ誘い込む。そこは温暖で空気が乾いていて快適だが、陽射しは強くないので日焼けを気にしなくていいだろう。言葉は通じないが、出てくる料理やドリンクはどれも旨い。飛行機に乗らなくても行ける不思議な秘境ツアー。どの曲もYMO『BGM』のボーナス・トラックになりそうな普遍性を感じさせ、これはテクノの歴史に名を残すべきアルバムと言えましょう。speedometer.として知られる高山純さんだが2017年にリリースされたSLOMOS名義のCD『SLOMOS』も不朽の名作であり、再評価されるべきだ。


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オサカナことsora tob sakanaが解散した。ポストロックを基調とした楽曲のクオリティでメジャー・デビューを果たし、アニメの主題歌に起用されたりして、これから売れていくアイドル・グループだと思われていた。子役タレント中心のプロダクションが運営していて、おそらく物心つかぬまま親の薦めで芸能活動を始めた少女たちが二十歳前後になって「普通の女の子に戻りたい」と自覚し始め、解散に至ったのではないかと推測する。レパートリーのすべてを網羅した四時間を超えるラスト・ライブにも涙はなく、むしろプロとして演じる最後の姿を見せる矜持、そこから解放される喜びが入り混じっているような印象を受けた。エンディングは三人が笑顔で手を繋いで輪になり、日本青年館のステージを覆い隠す巨大な煙の中に消えていくという衝撃的なものだった。爆音のフィードバック・ギターが止み、煙が薄れていく空中にレーザー光線が「sora tob sakana」と綴り、観客は悟った。これで終わりなのだ。歴史を振り返る感傷的な映像とか、煽情的なテロップとか、元メンバー登場のサプライズとか、そういうダサい演出は一切ない。アンコールさえないのだ。渾身のパフォーマンスと「sora tob sakana」という記号だけ。なんと潔く、儚く、美しいのだろう。本当に素晴らしいものを観て、心の底に余韻が長く続いた。女性アイドルには常に辛辣な評価を下し坂道などには1ミリの興味も示さない妻がオサカナだけは好きで、配信ライブも一緒に観ていたのだが、おもしろかったのは当日の昼にYouTubeでオサカナ・バンドが「夜空を全部」を演奏している四年前のリハーサル動画を観て妻が泣きだしたことだ。妻は「演奏するの今夜が最後なんだなぁ」と言ってティッシュで涙を拭いていた。オサカナの曲はどれも素晴らしいが「夜空を全部」はデビュー曲だ。sora tob sakanaは最初から最後まで、圧倒的に凄かった。























by kamekitix | 2020-10-17 00:00